今日のブログはちょっと小難しい話です。 先日のダイナベクター富成さんによるモールトン講習会で一番驚いた、というか感動したことをお伝えしようと思います。
ご存知の通り、モールトンには前後にサスペンションが付いていまして、前は金属のコイルスプリング(見えないけどヘッドチューブ内部に長ーいスプリングが入っています)を利用したリンク式サスペンション。 後ろは自動車のMiniにも採用されていたラバーコーンと言われるラバー(天然ゴム)を使用したサスペンションになっています。
今日はその後ろ側のお話。 前に比べて構造が簡単だと思っていたんですが、驚くべき秘密が隠れていたのでぜひ皆さんにも知っていただきたいという次第であります。
まずは素材のお話
前置きが長くなりましたが、始めますね。(深呼吸)
まずはそもそもの素材のお話。 前途の通りゴムを使っています。
当たり前の話ですが、ゴムって力を加えたら変形して、また元に戻りますよね。
金属ばねも同様に力を加えたら縮んで、また元に戻ります。
でもそれぞれ特性が違いまして、金属ばねは弱く力を加えれば少し縮み、グーっと強く力を加えると大きく縮みます。 力の強さと縮む量をモデル的にグラフにするとこんな感じです。
計測方法は体重計の上に乗せた素材(ゴムや金属ばね)を上から押さえつけて、体重計の指す目盛で測ります。 「グラフ」 加えた力に比例して反発する力も多くなっていきます。 で、結論から言っちゃうとこういう変形をする素材の方がサスペンションには適しています。
対してゴムの場合はどうでしょう。 コンニャクを想像してもらうとわかりやすと思うんですが、ごく弱い力でもプルプル・クニャっと変形しますが、ある程度まで変形すると加えた力に対して変形量が少なくなります。 グラフで見るとこんな感じ。ある時点から急激に硬くなります。
サスペンションとして使いやすい硬さの部分は非常に狭いので、体重にあわせてゴムの硬度や潰すレバー比を変える必要がある訳です。
なぜモールトンはラバーコーンなのか?
はい、ここまでが素材の特性のお話です。 ではモールトンはどうしてイマイチ適していないゴム素材を使っているんでしょうか? 一つの答えは金属ばねに対してゴムの方が軽く作れるから、ということ。 そして、もう一つの答えはモールトン博士の設計したこの形状に秘密がありまして、、、実はモールトンのラバーコーンは入力の強さに比例して反発するように(金属ばねに近い特性になるように)設計されているんです。 その設計の妙をご紹介するのが今日のブログのキモなのですが、 なぜそういう特性を示すか、の説明の前にゴム素材に対しての力の加え方について説明をしていきます。
素材への力のかけ方
通常、素材に対する力のかけ方は5種類あります。 1、圧縮 2、引っ張り 3、ねじれ 4、曲げ 5、せん断 この5種類です。 ゴムやエラストマー樹脂を使ってサスペンションにしている自転車はたくさんありますが、その多くは1番の圧縮とその反発によって振動を吸収しています。 しかしモールトンの場合は圧縮よりも「せん断」とその応力がメインになります。
「せん断」って、あまり聞きなれないかもしれませんが、素材がズレる動きをする時の力のかかり方が「せん断」です。
そう言われてラバーコーンを再度見てみると、カップ状になっていてラバーコーンを支えている部分と、そこに刺さる形でリアフレームが当たっているのがわかります。
ラバーコーンの内と外でズレる動きをさせているように見受けられますね。
断面形状はこんな感じです。
圧縮とは違う力のかかり方を計算してるのがわかりますでしょうか?
単純にゴム素材を圧縮する能登は違う特性を示すせん断応力を使って、さらに
強く力が加わった時には本体との接触面積が増えるようにも設計されています。
これによりモールトン独自のしっとりしたサスペンションの動きを実現してるんですね。
ちなみにこちらはモールトン博士が設計した車のMiniのラバーコーンです。
これが4輪にそれぞれ付いています。ちゃんとモールトンさんの名前も入っていますね。
同じ考え方で作られていることが形からも伺えます。
余談ですが、車の場合その重さやスピード(荷重)から数年ごとに交換が必要だそうですが、自転車の場合は基本的にはずっと交換不要です。
どうでしょう、僕の拙い説明でもイメージ掴んでいただけたでしょうか・・・? 単純に潰れて復元するゴムの動きとは別次元の緻密さで計算されてる、ということだけでも覚えておいてもらえたら嬉しいです。
ちなみに先日の講習会を開いてくださったダイナベクターの富成さんが開発したDV-1はラバーコーンにウレタンゴムを使っています。(モールトンは天然ゴムです) Miniやモールトンのラバーコーンが開発されてウン十年、ゴム素材も進化していますからね。流石です。
オリジネーターのモールトンももちろん素晴らしいですが最先端のエンジニア魂に触れてみたい方はDV-1も選択肢に入れてみてくださいね。